(2008/10/22)
リレー小説第33回
エノラはササヤマから聞いた話を思い出していた。
「<03>、あなたたちの他に、私たちが作り出してしまった存在がいるの。いいえ、作り出してしまったというのは適当ではないかしらね。」そういうと、ササヤマは目を逸らした。「犯罪者の体に、体を強化するシステムを実験的に埋め込んだのよ。実験体になることと、政府への協力を条件に、減刑を約束してね。実験体の一人は青い髪の男。一人は銀の髪の少女。男は人の行動を制限し、少女は重力を操る特殊な能力を与えられた。」そういうと、ササヤマは憎々しげに唇を噛んだ―――。
エノラには、自分の身などほとんどどうでもよかった。殺すなら殺せばいい。自分が<03>の元となった男性であったときは、死ぬ前にやり残したことをあれこれ思ったものだ。しかし、今となっては、なんだかどうでもよくなってしまっていた。心まで機械になってしまったのか。女性体の<04>から感情を奪い、それでも足りずに少年から脳の機能を奪ったというのに。
ただ、ひとつだけエノラの心にひっかかるものがあった。
ササヤマの存在だ。
私はもう<03>ではない。ササヤマから肉と名前を受け取ったエノラなのだ。全身の細胞が疼いたような気がした。彼女は、どうすることを望むだろう?エノラは、2人のことを話すササヤマの憎々しげな顔を思った。
エノラは身構えて、神経を研ぎすます。それを見たクリアの顔に獰猛な喜びが満ちる。
エノラは、人間と呼ぶには、あまりにも人間離れした能力を持っていた。まさに目にも見えぬ素早さで、クリアの腹に強烈な一撃を喰らわせる。クリアが能力を発動する間もなかった。彼の体はすぐそばの墓石に激突した。そして、石を赤く染めたまま動かない。
「クリア!」
怒りに震えたスカーレットが、感情にまかせ、立て続けに量子銃の引き金をひく。一発目は外れ、二発目。二発目も外れ、三発目。エノラは銃弾の軌道にクリアの体を投げる。三発目の弾はクリアの体を直撃。
スカーレットの弾が、大好きなクリアを貫いた…。ショックのあまり、彼女は体に力を入れることができなくなり、膝をついてくずおれた。
昔の仲間の声を、桁外れの聴力がかすかにとらえた。
「we are not human beings.」
エノラはスカーレットの銃を奪って、彼女に弾を撃ち込んだ。
こんにちは、青野です。
いろいろごめんなさい。
二人は人間を超えているので、生きていると信じています。