(2008/09/30)
リレー小説第32回
椎名です。遅くなりましたが、気合を入れて更新します。
薄暗く光の差し込まぬ大広間。その中央に設置された円卓には12の席が設けられ、男女、年齢も様々な面々が顔をつき合わせ正面のモニターに映し出される映像を食い入る様に凝視している。
「結局、セカンダリーフォーマットの阻止は失敗。<03>は人間へと到るか」
映像が終わると、若い男が呟く。その口調には落胆と諦めが色濃く感じられる。
「まったく!! 科学局はとんでもない発明をしたものだわ!!」
若い女は不機嫌さを隠す事無く声高に不満を口にする。
「既に起こってしまった事を嘆いても仕方が無かろう。必要なのは、この問題に効果的な策を立てる事じゃろうて」
老婆の言葉にざわめきたつ広間は再び静寂に包まれる。
「そ、そもそも! クリア! 貴様が無様に逃げ帰って来たせいではないか!! あの場は命を賭けてでも<03>を破壊すべきだろう!!」
中年の男は静寂を破ると、上ずった声で円卓の後方に立つクリアへと非難の矛先を向ける。
「そ、そうよ!! 貴方が作戦を成功させていれば、こんな面倒は免れたのに!」
中年の男の言葉に賛同するかの様に、若い女は再びヒステリックに叫ぶ。
2人の声に後を押された様に、次々とクリアへの非難の声が上がり、数分の後には広間の話題はクリアへの糾弾に変わっていた。
「そもそも、スカーレットが同行していたのだから、スカーレットを使えば事は済んだではないか」
中年の男は何かに気づいたかの様に、スカーレットの名を口にする。
「そうよ!! スカーレットよ!! あの子を使えば解決じゃない!」
若い女は名案を思いついたかの様に歓喜の声を上げる。
広間にスカーレットを起用する声が広がる中、沈黙を守っていたクリアが静かに口を開く。
「つまり卿達は、今回の責任は全て我らにあり、<03>の完全破壊にスカーレットに能力を使わせると?」
「そうだな。今現在は、スカーレット以外に<03>の破壊が不可能なのだから当然の選択と言えよう」
若い男は、クリアの問いに淡々と答える。
「政府の危機管理分であるアカイバの円卓の勇士と言えど、予想外の自体には、この程度とは笑えるな」
クリアは円卓の12人を1人1人り見渡すと、静かに嗤う。
「貴様!! 口を慎め!!」
若い男が怒りに声を荒げるが、その様もクリアには円卓の名誉にすがりつく滑稽な者に映る。
「結構。貴方方の協力が期待できない以上、この件に関しては俺は単独で動かせてもらう」
クリアは吐き捨てる様に言い終えると、踵を返し扉へと足を向ける。
「クリア。これは円卓の決定じゃ。今すぐスカーレットを伴い<03>の破壊に向かうのじゃ」
老婆は立ち去るクリアの背中に言葉を投げかける。
「黙れ、腰抜け共が。せいぜい、机上の空論に労力を使い、その席が守られる事を祈っているが良い」
クリアは振り向く事も足を止める事も無く立ち去る。
扉が閉まる重厚な音の後には、再び静寂。
老婆はインカムを耳に付けると無線での通信を始める。
「こちら円卓じゃ。クリアは反逆の危険性がある。行動を監視し不審な動きが有り次第、始末せよ」
インカムからは「了解」と無機質な声が返って来ると再び円卓を静寂が支配される。
クリアは広間を出ると早足で一直線に部屋へと向かう。
豪華絢爛に彩られ赤絨毯が敷かれた廊下を進むと、突き当たりの部屋の前で足を止める。先程まで孕んでいた怒りを溜息と共に捨て去ると、部屋のドアを開く。
「クリア!! 遅いよーー!!」
部屋に入るなり、銀髪の少女、スカーレットは両の頬を膨らませ精一杯の抗議をする。
「悪いな、お偉いさんの話が長くてな」
クリアは優しい手つきでスカーレットの髪を撫でる。クリアの行為に嬉しそうに目を細めると、膨らんでいた両の頬も元に戻る。
「それで、どうなったの? やっぱり私達で破壊するの?」
「ああ。俺達に責任を押し付けて、自分達は高みの見物だそうだ」
「ふぅ~ん」スカーレットは、さして興味もないのかクリアの言葉を直ぐに受け入れる。
「あ!! それなら、あのデク人形は私が壊してもいいよね!? ねえ、良いよね!?」
スカーレットは瞳を輝かせ、クリアの腕に抱きつく。
「ああ、好きにしたらいいさ。ただ、真正面から勝負するのも馬鹿らしい。利用できるものは全て利用してからだ」
クリアが狡猾な笑みを浮かべる中、「ん?」とスカーレットは疑問符の付いた表情を浮かべる。
「まぁ、詳しい事は移動しながら話す。準備は?」
「クリアが遅いから、とっくの前に終わってるよ~」
クリアの問いに即答し、スカーレットは頭をさしだす。
「スカーレット。1つだけ約束して欲しい。何が遭っても能力は使わないでくれ」
クリアはさしだされた頭を優しく撫でると、真剣な顔でスカーレットを覗き込む。
「うん!! クリアが言うなら使わないよ。約束!!」
スカーレットからさしだされた小さな小指に小指を絡ませ2人は1つの誓いを立てる。
「先に行ってるねーー!!」
照れ隠しか、スカーレットはクリアを待たず、先に部屋を飛び出る。部屋に取り残されたクリアは窓に映る夜景に目を向ける。その顔付からは先程までの優しさは抜け落ち、冷徹で狡猾な殺人鬼が現れる。
猛禽類を想わせる緋色の隻眼を湛え、クリアは部屋を後にする。
<03>がエノラへと成ってから5時間後、クリアが円卓を去ってから2時間後。
初老の男性を先頭に<01>、<02>、<04>が続く。彼らの目的であるエノラの居場所は既に特定されており、後は強襲を成功させ鎖を発動させるだけである。
「博士、まだなのか<03>の居場所まで?」
「もう直ぐじゃ、皆も心の準備を済ませよ」
<01>の問いに即答し、博士は全員に準備を促す。博士の言葉をそれぞれが自らの心に反芻する。<01>にとっては理解できる部分が少なく話に流されてばかりだが、<03>を止めなければいけないとの使命感は強くなる。
全員が強い使命感と連帯感を伴い、<03>へと近づく中、ソレは闇の中より姿を現す。
「久しぶりだな。博士」
闇から姿を現した1匹の蟲は親しげに語りかけてくる。
「クリア!! 貴様か!!」
博士は苦々しげに唇を噛むと、闇夜に浮かぶ蟲を握りつぶそうと腕を伸ばす。
「待てよ。今日は良い話を持ってきた」
蟲の言葉に博士の腕が止まる。蟲は一呼吸置くと話し始める、<03>が既に人間、エノラに成っている事実を。
「ササヤマ・・・なんという事を」
博士は肩を落とし、うな垂れる。
「過去を気にしても意味の無い事だ。大切なのはこれからだ、そこで提案する。俺達と手を組まないか?」
クリアからの思いがけない申し出に、一同はその真意を探ろうと沈黙する。
「何も不思議な話しではないだろう? 目的は同じなんだ、お互いの効率を良くしようと言っているんだ」
蟲から伝わる声は飄々としており、一同は真意を掴めず沈黙を守るしかない。
「疑り深いな。では、1つ良い事を教えてやるよ。お前達の後方200mに政府軍の監視がいるぞ」
一同は慌てて後方に意識を集中すると僅かながら何者かの存在を感じる。
「<04>・・・頼んだ」
博士の言葉と共に<04>が意識から行動に移そうとする前に蟲が語りかけてくる。
「慌てるな。これから俺の同盟話が嘘では無い証拠を見せる」
蟲との交信が途切れて数秒後、後方から短い悲鳴が3つ聞こえると何かを引きずる音と共に何者かの足音が響く。
足音が止まると、何かが一同の前に乱暴に投げ込まれる。
「う・・・」
<01>が目の背けたくなるもの当然であろう。投げ込まれたのは1人の男の骸。鋭利な刃物で首を切り裂かれ、心臓を1突きされている。
よほどの早業だったのだろう、骸は瞳を開けたまま絶命の瞬間を、そのまま残し、首と胸からは赤黒い雫が垂れる。
「これで信じて貰えたかな? 俺の提案が嘘で無いと」
後方の闇から姿を現したのは、緋色の隻眼を湛えたクリアとスカーレット。
「効率化とは、どうする気じゃ」
博士は油断無く、クリアを睨むと提案の詳細を求める。
「簡単だ。お前達ではエノラには手が出ないだろう。鍵を発動する時間すら稼げない可能性は高い。だから、その時間稼ぎを俺とスカーレットが引き受けると言っている」
「信じろと?」
「最善の方法だと思うが結論は任せる」
2人の間にしばしの沈黙も博士は溜息と共に大きく肩を落とす。
「信じよう。ただし、時間は確実に稼いでもらうぞ」
「任せろ。そちらも失敗はしないでくれよ」
ここに、エノラの包囲網となる1つの同盟が成立し、共にエノラの居る教会墓地を目指す。
先頭をクリアとスカーレットが行き後方に博士達が続く、一向は注意深く墓地に近づくと墓地独特の墓場の臭いが鼻を衝く。
博士達は鍵の発動のチャンスを得るために、エノラを囲む様に身を隠す。
クリアとスカーレットは正面からエノラへと墓地を登る。
そして、エノラとクリア、スカーレットは常闇の墓地で再び対峙する。
「よぉ、デク人形。お前に終わりを告げに来たぜ」
無表情のエノラと対照的にクリアは笑みを浮かべる、静かな猟奇的な笑みを。
長くなってしまいました・・・・空気が読めない投稿申し訳ありません。
自分で登場させたクリアとスカーレットの話をなんとか本筋に絡ませようと、かなり無理と早足で無理やりこじつけました・・・すみません、これが限界でした。
暴走するだけ暴走して、次の方に結末を委ねたいと想います・・・ごめんなさい。
※クリアとスカーレットの詳細を置きます。
クリア・・・武器は2本のナイフで身体能力は人間を大きく上回ります。能力は“鎖”で隻眼の開眼が発動条件です。鎖は相手に使用することで、動きなどを制限できますが、自身に埋め込む事で自身の強化も可能です。
スカーレット・・・武器は2丁拳銃の量子銃で身体能力はクリアを上回ります。能力は“重力”で能力解放後は小型ブラックホールになりますが本人も負担から死亡します。いつもは鎖の能力を持つクリアの傍に居る事で平静を保てて居ます。