(2008/09/15)
リレー小説第31回
こんにちは、凪木です。リレー小説の更新をしておきます。
「ササヤマ」
<03>は静かに立ち上がると、無機質な、しかし先程より幾分か滑らかな声で告げた。
「セカンダリーフォーマットが完了しました。指示を」
倒れているササヤマの口元に笑みが浮かぶ。身体を起こすと、彼女は勝ち誇ったように<03>への命令を下した。
「良くやったわ、<03>。まずは、そこの邪魔者を排除して頂戴」
「了解しました」言うが早いか、<03>は薙ぎ払うように手刀を繰り出した。クリアは咄嗟に身体を捻ってかわし、そのまま勢いを殺さず掌底の一撃を加える。しかし<03>に当たる直前でプラズマの啼くような音とともに弾かれた。怯むことなく流れるような脚の連撃。しかしこれらもことごとく弾かれる。
「電磁式か」クリアが舌打ちする。「スカーレット!」
鋭く叫ぶと、スカーレットは素早い動きで懐から二丁の拳銃を取り出して構えた。銀色に光る銃身を持ち、黒い幾何学文様が刻まれた自動式拳銃だ。クリアと対峙する<03>を見据えると、狙いを定めてトリガーを絞る。一発。二発。乾いた衝撃音が部屋に響く。
放たれた銃弾は発砲と同時に<03>へと到達したが、先程と同様に弾かれて粉々になった。
「この程度じゃダメみたい。量子銃か何かじゃないと」
クリアも距離を取り、スカーレットと並ぶ。
クリアは冷静に状況を分析する。今回は<03>のセカンダリーフォーマットが終わる前に確保、無力化するというスピード勝負の作戦だったため、二人とも装備が薄い。相手に先手を取られてしまった今、力押しで<03>を確保するのがベストではあるが、このまま戦い続けても勝機はない、そうクリアは判断した。
「セカンダリーフォーマットによる『成長』……想像以上だな。ここは一旦退こう」
クリアは素早くスカーレットを抱き上げると、「ちょっ、ちょっとクリア、こんな時くらい自分で走れるってば!」入口から飛び出す。彼らの姿はすぐに薄煙の向こうへと消えた。
<03>は二人の後を追うように走り出すが、それをササヤマが制する。
「追う必要はないわ、<03>。セカンダリーフォーマットの成果は上出来。あなたの調整が終わった今となっては、彼らなど敵ではない。私たちの勝ちよ」
そして彼女は手招きして<03>を呼び寄せると、自ら光を放つその瞳を真直ぐに見つめ、言った。
「<03>、良く聞きなさい。これから今回の計画の仕上げに入るわ。全てが終わったら、あなたは自由になる。人として生きていくの。この意味が分かるわね。……科学者の好奇心で機械に人の脳を植え付けるなんて、許される所業ではなかった。だから、今からあなたを人間にしてあげる。それが、あなたを生み出してしまった私の、せめてもの償い」
<03>の瞳は彼女を見つめ返す。ササヤマは<03>の手を取って、自分の胸に押し当てた。
「私の、この身体をあなたにあげるわ。今のあなたにならできるはず。そして私の身体をセカンダリーフォーマットで定着させれば、あなたは名実ともに人間になれる」
<03>は躊躇した。
「身体の物理的なスティールを行えば、ササヤマの存在が消滅することになります」
しかし、ササヤマの瞳には強い輝きがあった。
「構わないわ。それに私は消えたりしない。あなたの中で生き続けるの。これは命令よ、<03>。……いいえ、もうそんな管理番号で呼ぶのはおかしいかもしれないわね。あなたのことは、エノラ、そう呼びましょう。
この身体はあなたへの償い。そしてこの名前は、あなたへのプレゼントよ」
数時間が経過し、<03>のセカンダリーフォーマットは完了した。
物質を分子レベルに分解し、取り込み、再構築するという高度な物理的フォーマット。全てはこのフォーマットを行うための計画だったのだと、<03>は知った。
「ササヤマ」
薄暗い部屋に、ササヤマの声が響く。
「私は、……エノラは、あなたに感謝しています」
この辺りは戦闘シーンの得意な方に当たると良かったんですが、
自分の順番のときに来てしまったので苦心しつつ書きました。
で、無理やり面倒な展開に持っていって後の方を困らせようという……心遣い(←嘘つけ)。
何はともあれ、次以降の方よろしくお願いします。