(2008/30/30)
リレー小説第26回
老人は話し終えると静かに溜息を吐く。
誰一人、口を開こうとしない静寂の世界の中で老人の溜息が強く耳に残る。
話さないのでは無く話せない。みな老人の語った言葉の重大さを自分なりに理解しようと必死なのだ。
<01>の脳裏にも老人の言葉が反芻し、いくつかの疑問が思い浮かびながら言葉にならずに消えていく。
重苦しい空気が部屋を支配する中、本棚の裏を小さな生物が静かに蠢く。
いや、それは生物と呼ぶには余りに機械的な動きをしながら、死角となる場所を見つけると動きを止め、人の聴力では拾う事のできない周波数を自らの主へと届ける。
朝に昇った太陽が時間の経過と共に、その凶暴な光を強める中で、その男は佇んでいた。
男が佇むのは、小さな空き地。隙間無く建物が建ち並ぶ中で、時代と共に忘れ去られた場所。
紺の髪に緋色の隻眼、黒のコートを身に纏い、耳に付けたインカムを通して眼前に広がる建物に送り込んだ虫からの情報を受け取る。
男は口元に右手を添えると考え込むように隻眼を瞑るが、その真剣な空気を破壊する能天気な声が隣から投げかけられる。
「お腹すいた~。まだなの?」
能天気な声を投げかけたのは、男の左腕にぶら下っている銀色の髪をした少女だ。
流れる様な銀色の髪に猫を思わせる金色の瞳、何より、穢れを知らぬかの様な無邪気な笑顔が魅力的な少女だった。
「クリア~~。ご飯~~」
少女は男、クリアに自分の空腹を訴え続ける。
少女の声を無視し、周波数を解析するクリアだが、少女の声が大きくなるにつれて眉間に皺が寄ってゆく。
「分かった!分かったから、今は静かにしてくれ」
クリアは諦めた様な口ぶりで少女に対して妥協案を口にする。
「本当!!直ぐにご飯にしてくれるんだよね?」
少女は目を輝かせながら満面の笑みをクリアに向ける。
「ああ、直ぐに終わる。虫から中の情報も探れたしな」
クリアは満足げな笑みを少女へと向ける。
「へえー、<03>について何か分かったんだ?」
「ああ、それ以外にも重要な情報も手に入った」
クリアの言葉に満足げな表情を見せながらも、少女は思いついたように疑問を口にする。
「こんなに面倒な事をしないでも全員壊しちゃえば良いのに」
少女の口から出た“壊す”と言う言葉。少女は背筋が凍る程冷たい眼差しを建物へと向けると小さく微笑む。
「それでは意味が無いのだよ。我の存在は知られてはならない。常に陰の存在で無くてはならない」
クリアは少女を諭すかの様に静かに語る。
「良く分からないけど、クリアが言うなら、それが正しいんだね」
少女は甘える様にクリアの腕に抱きつきながら納得した様に何度も頷く。
「ここでの用事は終わった。さて、食事にしよう」
クリアの言葉に目を輝かせながら、少女は歩き出す。
クリアは少女の後を追いながら、振向き様に右目を細めると猛禽類を思わせる瞳で建物を見つめる。
「クリアーー!早くーーー!」
「分かってるよ。スカーレット」
クリアは少女、スカーレートに答えると彼女の後を追う。
初めまして、椎名稔です。
初めてのリレー小説に戸惑いながら書いてみました。
かなりの長文&話の流れを読んでいるのかという内容で申し訳ないです。
勝手にキャラを増やしたりと、かなり暴走しましたが、この辺りで次の方に任せます。次の方、申し訳ありません。